上川町の層雲峡温泉では、毎年1月下旬~3月中旬に、夜のイベント「氷瀑まつり」が開催されます。会場は国道39号沿い。町民らが作った大きな氷像が色とりどりにライトアップされ、幻想的な雰囲気を醸しだしています。
氷像の中は入ることもでき、氷のイスとテーブルで上川大雪酒造のお酒が味わえる「北の氷酒場」や、見事な氷の彫刻が見られる「氷彫刻の美術館」といったユニークなコンテンツも。
また20時30分には打ち上げ花火があがります。澄み切った冬の空気の中で舞う花火は、色が鮮明で美しさもひとしお。
さすが1~3月は氷点下20度以下を記録する日もある、厳寒の上川町層雲峡ならではのイベントです。
アイヌの女性5人が演ずる「鶴の舞」
ステージ上ではアイヌ古式舞踊も披露されます。演目は「鶴の舞」「弓の舞」、そしてムックルの演奏です。
「鶴の舞」を踊るのは5人の女性。全員が全員、「アイヌ伝統の舞を継承するぞ」などといった肩に力が入った感じがまるでなかったのが印象的です。
「踊りは母や祖母が踊っているのを見て、自然に覚える感じだよね?」
「うん、『覚えるぞ、多くの人に見てもらうぞ』みたいなアツい感じはない(笑)」
「この子(娘)が踊り始めたのは…歩けるようになるのと同時くらいかな」
「気がついた時には毎年、舞台に上がっていました(笑)」
「私は踊りを大人になってから覚えましたが、娘は子どもの頃から自然に身につけていましたね」
「うん、歌詞も聞いているうちに覚えました」
そう語る5人の踊りは、〝よく訓練された一糸乱れぬ動き〟ではなく、それぞれが見て覚えたことを、自分の体の動きで表現するもの。その自然な動きが、見る人の心をホッと和ませてくれます。
またアイヌ語で歌われる歌も、意味はわからなくても、心に響いてくるから不思議です。
刺繍にまつわるアイヌの〝恋バナ〟
ムックルの奏者はMCも務める伊澤フサ子さん。実はフサ子さんは、美しい独特の刺繍が施された踊りの衣装を仕立ててもいます。
「昔のアイヌの女性はね、マタンブシ(はちまき)に刺繍をして、好きな男性にあげるのが慣例だったのよ。それで相手はお返しに、模様を彫った台所用のマキリ(小刀)をくれるの」。
ステージ横で、刺繍にまつわるこんな話も聞かせてくれたフサ子さん。ご自身もこのようなご経験をされたのでしょうか…。アイヌの素敵な〝恋バナ〟、もっと聞きたくなってしまいますね。
神々への奉納の踊り
最後に、女性5人の手拍子と歌声に会わせて「弓の舞」を踊ったのは伊澤一浩さんです。「弓の舞」は男性の代表的な踊りの一つ。伊澤さんは、「この踊りは釧路に住むアイヌから教わった神々への奉納の踊りです」と話します。
アイヌ古式舞踊は国の重要無形民俗文化財に指定されています。2023年の氷瀑まつりもまだまだ開催中ですので、冷え切った氷の世界と合わせてお楽しみください。
(聞き手/ライター 孫田二規子)
氷瀑まつり
- 開催期間/2023年1月28日〜3月12日
- 時間/17時〜21時30分