大雪山連峰の主峰・旭岳(標高2291メートル)の山開きの日、アイヌはヌプリコロカムイノミという祭事を行い、登山者や観光客の安全を祈念します。2019年も無事に執り行われましたので、当日の模様をお伝えしますね!
旭岳ビジターセンターがオープン!
山開きが行われるのは、例年6月第3土曜。今年はロープウェイの山麓(ろく)駅そばに、新しい「旭岳ビジターセンター」が開館するという嬉しいニュースも重なりました。
新しくなったセンターには、旭岳ロープウェイの運行を知らせる大型モニターや大雪山系の山々を俯瞰(ふかん)できるジオラマ模型と登山ルートの案内などを設置。
登山や散策に役立つ情報が満載です。
たいまつ行進とヌプリコロカムイノミ
山麓(ろく)駅付近で行われた東川神社の神主による安全祈願祭が終わった後、会場は、旭岳青少年野営場へ移動。地元の飲食店の露店が並び、東川町の郷土芸能「羽衣太鼓」の演奏が行われるなど賑わいをみせました。
そのような中、雨を避けるため予定時間より早く、たいまつ行進がスタート。
アイヌを先頭に旭岳温泉の宿泊者や留学生、地元の少年団たちがたいまつを持って練り歩き、そのたいまつで、会場中央のファイヤープレイスに点火。火はゆっくりと燃え移り、次第に大きくなっていきました。
ヌプリコロカムイノミって?
いよいよ、ヌプリコロカムイノミです。
ヌプリコロカムイノミを日本語に訳すと、ヌプリ(山)・コロ(を統べる)・カムイ(神)・ノミ(祈る)となります。
本来、ヌプリコロカムイとはヒグマのことを指すそうですが、この儀式では、山の神という意味で使われています。
「山の神をはじめ、ワッカウシカムイ(水の神)、コタンコロカムイ(国作りの神)など7つの神に、登山者や観光客の安全と幸せを祈念する儀式なんですよ」と教えてくれたのは、進行役を務めた「川村カ子ト(かわむらかねと)アイヌ記念館」副館長の川村久恵さん。
参加者たちはイナウ(木弊、もくへい)を立てたヌササン(祭壇)の前に座し、アイヌ語の祈りの言葉が厳かに上げられる中、お神酒を捧げるなどしました。
観客も参加してアイヌ古式舞踊
アイヌにとって歌と踊りは、儀式や人が集まった時に欠かせないもの。
北海道に自生するネマガリダケ(ヒメタケとも呼ばれています)を薄く削ってヒモを付けた口琴・ムックㇽ(またはムックリ)の演奏、そして歌に合わせて踊るアイヌ古式舞踊(国指定重要無形民俗文化財)も行われました。
「この場所で祈りと踊りを行うのは1年ぶり。懐かしい気持ちを込めて」と前置きして始まったウェカプ(あいさつの踊り)の後は、松の木が風で揺れる様子を表現したフッタレチュイ(トドマツの踊り)、親鶴のヒナへの愛情を表現したチカプ ウポポ(鶴の舞)を披露。
最後は、観客と一緒に輪を作って踊るシカリウポポ(輪踊り)で締めくくりました。
上川アイヌが畏敬の念を込めてカムイミンタラ(神々の遊ぶ庭)と呼ぶ大雪山は、彼らにとって、石狩川がさかのぼって向かう先であり、さまざまな自然の恵みをもたらしてくれる特別な場所です。
ヌプリコロカムイノミやアイヌ古式舞踊からは、神や自然への畏れ、感謝を忘れず、人々の幸福を願って生きる彼らの信仰観が感じられ、心が洗われるようでした。
取材・文)ライター 孫田二規子